ハームリダクションについて|ハームリダクションの事例などご紹介

ハームリダクションとは何か?事例とその効果を詳しく解説

タバコやアルコールは依存性がある嗜好品であり、なかなかやめられず悩んでいる方も多いのではないでしょうか。依存性という共通点で考えると、薬物に関しても同じ特徴が挙げられます。

 

実は、依存性が高く健康被害を及ぼす危険性があるものに対して、その害を低減することを目的とした「ハームリダクション」という概念があります。

あまり聞き慣れない言葉ですが、ハームリダクションとは具体的に何なのか、タバコに関するハームリダクションの事例やその効果についても詳しく解説します。

ハームリダクションとは?

ハームリダクションとは、日本語で「害の低減」と直訳されます。

また、ハームリダクションの国際的なNGOであるHarm Reduction Internationalでは、ハームリダクションのことを以下のように定義しています。

 

「違法であるかどうかに関わらず、精神作用性のあるドラッグについて、必ずしもその使用量は減ることがなくとも、その使用により生じる健康・社会・経済上の悪影響を減少させることを主たる目的とする政策、プログラム、そして実践」

出典:http://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse2090.pdf

 

ドラッグと聞くと違法薬物を真っ先にイメージする方も多いと思いますが、タバコやアルコールといった嗜好品も依存性があり、ドラッグに類似するものと考えることもできます。

これらの健康被害を及ぼすものに対し、公衆衛生や医療の観点から害を限りなく低減することを支援する指針および行動がハームリダクションといえるでしょう。

ハームリダクションの歴史

 

ハームリダクションという言葉は日本で浸透しておらず、一般的なものではありません。

しかし、その歴史は古く、ハームリダクションが初めて取り入れられたのは1980年代のアメリカといわれています。

当時、違法薬物が蔓延していたアメリカでは、静脈に薬物を注射器で打ち、それを複数人で使い回すといった行為がされていました。

その結果、違法薬物の使用者の間でHIV感染症が蔓延し、深刻な社会問題となったのです。

そこで、アメリカ政府は公衆衛生の観点から、薬物使用によるHIV感染を防止することを目的としてハームリダクションを取り入れました。

当時のアメリカ政府が行ったハームリダクションの具体的な対策としては、以下のようなものが挙げられます。

 

  • 使用済み注射器の回収し、使い捨ての注射器を配布するプログラム
  • 注射ではなく経口摂取する代替麻薬によるオピオイド代替療法
  • 違法薬物および感染症に関する情報提供と相談窓口の設置

 

日本では違法薬物に対する厳しい罰則があり、刑罰を与えるべきという社会的風潮が根強く残っています。

しかし、タバコやアルコールといった合法的な嗜好品は刑事罰の対象とはなりません。

また、仮に違法薬物の使用者に対して厳しい刑罰を与えたとしても、根本的な依存治療ができていない以上再犯の可能性があるのも事実です。

2010年代に入ると、世界各国は薬物使用者に対して刑罰を与えるよりも、薬物依存を克服できるような福祉的な支援を提供する風潮に変化してきました。

実際に、2014年には世界保健機関(WHO)が、薬物の使用を非犯罪化したうえで、感染症防止のために清潔な注射器を提供しながら薬物依存に対する適切な治療を行うことを提言しています。

 

出典:http://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse2934.pdf

 

ハームリダクションの事例

 

世界のハームリダクションの事例を見ると、違法薬物に対する依存性を克服するための治療という文脈で用いられるケースが多い傾向にあります。

たとえば、過去にアメリカ政府が行った注射器の交換プログラムは現在90カ国で採用されているほか、代替麻薬を用いたオピオイド代替療法は80カ国で導入されています。

しかし、日本においてはこのような事例はなく、薬物依存患者に対しては医師やカウンセラーによる治療が一部で行われているに過ぎません。

では、依存性のある嗜好品として知られているタバコに対するハームリダクションはどうでしょうか。

従来のタバコといえば、紙巻きタバコが定番であり、喫煙者の多くが日常的に紙巻きタバコを消費していました。

しかし、2010年代半ばから「iQOS」をはじめとした加熱式タバコが大手メーカーから登場し、今や一大勢力となっています。

加熱式タバコは従来の紙巻きタバコに比べて副流煙が少なく、衣服などにニオイがつきにくい特徴があります。

また、加熱式タバコを提供しているメーカーによれば、紙巻きタバコに比べて有害物質が低減されており、健康リスクの低減につながる可能性がある製品と位置づけられています。

また、ニコチンやタールを一切含まない蒸気をタバコのように吸う電子タバコも普及し、タバコの依存性から脱却するための一つの選択肢として注目されています。

さらに専門的な見地から考えると、禁煙をサポートするニコチンパッチや微量のニコチンが含まれたガムなども販売されるようになったほか、禁煙を目的とした医療を受けられる禁煙外来にも多くの患者が訪れています。

このように、ハームリダクションといっても違法薬物からタバコ・アルコールを対象としたものまでその範囲は広いことが分かります。

特に日本では、健康リスクを低減するために禁煙の意識が高まり、タバコに対するさまざまなハームリダクションの選択肢が用意されているのです。

出典:http://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse2934.pdf

タバコのハームリダクションとその効果

ハームリダクションにはさまざまな方法があることが分かりましたが、実際のところどの程度の効果が見込めるものなのでしょうか。

今回はタバコに関するハームリダクションの効果にクローズアップして解説します。

禁煙外来

まず、タバコのハームリダクションとしてもっとも高い効果が見込めるのが禁煙外来です。

専門の医療機関に定期的に通院し、医師からのアドバイスを受けながら薬を処方してもらうことによって、およそ70%程度の患者が禁煙に成功しているというデータもあります。

医療機関で処方してもらう薬はさまざまなものがありますが、もっとも一般的なのがニコチンの依存性を抑える禁煙補助薬です。

治療にコストはかかってしまいますが、なんとしてでも禁煙を成功させたいと考えている方にとっては効果的な方法といえるでしょう。

 

出典:https://www.ozaki-cl.com/treatment/kinen.html

 

電子タバコ

一方、喫煙そのものが習慣化しており、なかなか抜け出せない方の中にはニコチンを含まない電子タバコも選択肢に挙げられることでしょう。

2019年1月、イギリスの医学雑誌に掲載された論文によると、ニコチンパッチやニコチンガムよりも電子タバコのほうが禁煙に高い効果を発揮することが分かったようです。

ただし、この結果はあくまでも一部の研究機関によるもので、研究者によっても意見は割れています。

そのため、一概にタバコのハームリダクションに電子タバコが効果を発揮すると断定することは難しいでしょう。

 

出典:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59950

加熱式タバコ

電子タバコでは物足りないという方に支持されているのが加熱式タバコです。

従来の紙巻きタバコに似た味と吸いごたえがあり、紙巻きタバコから加熱式タバコへ移行するユーザーも少なくありません。

たとえば、「iQOS」を販売しているフィリップ・モリス・インターナショナルでは、従来の紙巻きタバコに比べてiQOSは大幅に有害物質を低減しているというデータを公開しています。

しかし、有害物質そのものがゼロではない以上、健康被害のリスク低減に直接的に結びつくとは証明されていません。

また、加熱式タバコの多くはニコチンの成分が含まれているため、従来の紙巻きタバコのように依存性があることも事実です。

出典:https://www.niph.go.jp/journal/data/69-2/202069020008.pdf

加熱式タバコはハームリダクションに有効?

加熱式タバコは登場してから間もない製品であり、具体的にどのような健康被害を及ぼすのか長期間にわたる統計データがとれていないのが現状です。

そのため、現時点で加熱式タバコがハームリダクションに有効であるという確証はありません。

しかし、最近では加熱式タバコに対応したニコチンを含まないスティックも登場しています。

「紙巻きタバコから徐々に本数を減らしていきたい」と考えている方にとっては、その第一歩として加熱式タバコを選ぶことは十分有効な選択肢といえるのではないでしょうか。

SUPERVISER

この記事を監修した人

監修医師:岡本 宗史
埼玉みらいクリニック院長:https://www.om-clinic.jp/

出身大学:愛媛大学(平成23年度卒業)・東京大学医系大学院(令和3年3月卒業)
専門分野:呼吸器内科、老年病科
診療科目:内科、整形外科、皮膚科
勤務日:休診日(火曜・金曜日)以外の全曜日